書評 小林雅一(2015). 『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』, 講談社現代新書

小林雅一(2015). 『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』, 講談社現代新書





筆者の主観が少ない。資料を寄せ集めて整理した印象。人工知能のこれまでの歴史、現在の各国、各企業での取り組み、研究成果についての概説だ。人工知能を手っ取り早く知るにはいい本だ。これでビジネス・チャンスが見つかるという本ではない。

人工知能の優れた技術、例えば、自動運転技術や折りたたまれた洋服とくしゃくしゃの洋服が同じものだと見分けるパターン認識など、新しいテクノロジーは、そのメカニズムを知ってしまうと、それまでそこにあった神秘性は消え失せて、単なる機械じゃないかと思う。テクニウムという本を思い出した。まだ読んでないが、そういったことが書いてあるらしいので、借りてきた。先ほどこれは人間も同じことかもしれない。脳科学が進めば、自由意志が何かも解明され、人間も自然現象の一部、解明されるべきもので神秘性はそこにないと思う人もいるだろう。

感想は、この業界は今後急成長し、何が起こるのかも予想つかない。とてもおもしろい。素粒子物理学の分野から人工知能研究にチェンジする人も多いと書いてあった。素粒子物理学では、最近はめぼしい成果が出ず、行き詰まっている雰囲気があるからだ。素粒子物理をやっている自分も、この分野から人工知能研究にシフトする気持ちはよくわかる。

人は神の領域に昇華している。神は神に似せて人を作り出した。人も人に似せてロボットを作る。



本書は、次の内容を含む
  • 映画『アイ・ロボット』のように人工知能が意識を持ち、人類と戦争することは起こるだろうか
  • 人工知能の歴史と各時代ごとに使われたテクノロジー(クラスター分析からベイズ推定、ディープラーニングまで)
  • 日本、ヨーロッパ、アメリカの人工知能をめぐる現状と今後の行方
  • 人間の存在価値はロボットに取って代わるのか。将棋から作曲家まで。

概説すると、次のようだ。

ディープラーニングの開発によって久々に人工知能研究は日の目を見た。例えば、今ではメールのフィルタリングから、自動運転技術にまで、さらにバッハのような曲を作るものまである。

日本は、産業機械を作っては売ることを繰り返して機械大国として成長してきた。先進諸国が機械で飽和してからは、東南アジアなどの成長している国に売るようになった。人工知能の開発は、東大発の企業シャフトがグーグルに売却されたように、日本は関心を持たなかった。

そんな中、グーグルやフェイスブックというアメリカIT企業は、人工知能の研究をしていた。日本の次の次の手を読んでいた。

汎用性のある機械を作ることは難しい。機械に無限の計算や可能性を考慮させることなく、計算の枠組み、フレームを与え、その中で計算させたい。計算量が多すぎて終わらないから、人があらかじめ起こる事象を想定し、if...then...elseを無限に書いても、網羅できない。困っていた。しかし、ディープラーニング技術があらわれた。汎用性を備えた人工知能だ。脳科学の知見を援用することで開発された。人間は過去の情報とトライ&エラーから学習している。それを機械にもさせよう、ということだ。これは成功を示している。

また、ドイツも日本のような産業機械を生産する国であるが、人工知能を新たな産業革命のようにみなして、大規模なプロジェクト"インダストリー4.0"を始動させている。このままでは、日本も手遅れになってしまう。そこで、やっと日本も人工知能へ取り組む姿勢を見せている。

人工知能は大量のデータを用いる。ネット上のデータから言語、言語間の翻訳も学ぶ。ある言語とある言語を学習すると、他の言語にまで学習成果があらわれるという奇妙な報告もある。また、IoT化により家の中に小さなセンサーが無数にある状況が生まれる。室内ロボットやソフトバンクのPapperなどもいい例だ。企業には、それらセンサーを通して家の中が全て筒抜けなのだ。プライバシーのない恐ろしい時代が待っているのだ(ジョージ・オーウェルの小説『1984年』を思い出す)。

本書の最後に筆者の意見が少しある。筆者は、人類に強い希望を寄せているらしい。これまで、チェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフが人工知能に抜かれたときなど、「チェスの創造性はその程度だ」といった自虐的な態度を人間はとることがあった。今後、将棋でも、作曲でも同じことを言う人もいる。それを武器として、人間の拠り所として生きてきたのに、コンピュータに取って代わられた途端、その創造的営みは、その程度のクリエイティビティしか持っていなかったと言うのだ。しかし、心配はない。人間が持つのは「知能」だけでなく、自らより優れた知能を創造し、受け入れる先見性と懐の深さがある。といった趣旨を言う。この点は、あまりに希望的観測な気がして、素直にそうですねとは言いがたいと思った。



また、数式の全然ない本書は、次のような人におすすめしたい。

  • 人工知能、機械学習、ディープラーニングを最近耳にするが、何のことか全くわからない
  • 人工知能によって雇用が奪われると聞くが、どうしたらいいのだろうか
  • 人工知能や統計解析の技術が最近の五十年間でどのように進歩したのか簡単に知りたい


ちなみに、目次は次のようになっている。


第1章 最新AIの驚異的実力と人類滅亡の危惧
――機械学習の光と陰
第2章 脳科学とコンピュータの融合から何が生まれるのか
――AIの技術と歴史
第3章 日本の全産業がグーグルに支配される日
――2045年「日本衰退」の危機
第4章 人間の存在価値が問われる時代
――将棋電王戦と「インダストリー4.0」[注]






第一次産業革命が、18世紀後半に始まった蒸気機関などによる工場の機械化によるものだとすると、第二次産業革命は19世紀後半から始まった電力の活用による大量生産の開始、第三次産業革命は20世紀後半に始まったPLCなど電気とITを組み合わせたオートメーション化だとされている。インダストリー4.0:ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】 (1/4) - MONOist(モノイスト)



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