書評: 村山斉(2010)『宇宙は何でできているのか』幻冬舎

書評: 村山斉(2010)『宇宙は何でできているのか』幻冬舎.





物理学の書物だがベストセラー


本書がぼくの大学に置いてあったので手にとってみた。僕の研究分野、素粒子物理学の本だ。著者は宇宙論の人だが、宇宙論と素粒子は今は密接に結びついている。なんと、難解なイメージの物理学の割に、本書は20万分を突破するベストセラーらしい。

2010年のランキング:

新書
(1)宇宙は何でできているのか村山斉著(幻冬舎)
(2)デフレの正体藻谷浩介著(角川書店)
(3)知的余生の方法渡部昇一著(新潮社)
(4)超マクロ展望 世界経済の真実水野和夫・萱野稔人著(集英社)
(5)日本は世界4位の海洋大国山田吉彦著(講談社)
(6)国家の命運藪中三十二著(新潮社)
(7)三宅久之の書けなかった特ダネ三宅久之著(青春出版社)
(8)高校数学でわかる線形代数竹内淳著(講談社)
(9)教えない教え権藤博著(集英社)
(10)経済古典は役に立つ竹中平蔵著(光文社)
(11月15日から11月21日まで、ジュンク堂書店大阪本店)
新書 「宇宙は何でできているのか」が1位 ベストセラー

いつの間に物理人気に火がついたのか。気が付かなかった。

ちなみに、本書はヒッグス粒子が発見される前に書かれた本なので、本文中でヒッグス粒子は未発見として扱われている

対象は広く宇宙や素粒子に関心のある一般の方々


本書は、専門外だが宇宙や素粒子に関心のある人にとても勧めたい。難しくて一部の人にしかわからないイメージを持たれがちな分野だが、本書なら楽しんでもらえるだろう。本書では数式も2,3式しか登場しないし、縦書だし、比喩表現が多くて、まるで雑誌Newtonのように読み進められる。本書の前では苦手意識は保つ必要がない。

専門の人にとっては、読み終わってもモヤモヤした感触が残るかもしれない。科学哲学的な議論
、最新の研究の大きな発見(例えばヒッグス粒子)、数式などは盛り込まれていない。

コンテンツ


序章では、宇宙論と素粒子論というスケールの両極端にある分野が密接に結びついていることの説明で始まる。宇宙はビッグバンによって始まり今もなお加速膨張しているが、その始まりはどんなだったのか。それを知ることは素粒子を知ることなのだ。

第一章では、現状の物理学でもわからないことがまだあると説明する。観測できないとされたニュートリノは見つかり、さらに質量まであることが確認され、宇宙マイクロ波背景放射が見つかったことで、ビッグバン理論は裏付けられ、そして宇宙マイクロ波背景放射の異方性にはダークマター(暗黒物質)がなくてはならないはずだが、それが何なのか未だにわかっていない。また、宇宙の膨張を引き起こしているダークエネルギーについても不明のままだ。

第二章で、原子の発見、標準模型、CP対称性の破れを検出器や歴史を追って順に説明していく。時代ごとの物理学会の衝撃や動揺にも触れており、無味乾燥な解説書とは違い、ドラマのように楽しむことができる。

第三章では、この世に存在する4つの力と、それぞれを媒介するボソンについて説明していく。弱い力と電磁力は宇宙初期では統一されていたし、力の媒介は仮想粒子によって行われている。

第四章が、湯川の中間子理論および小林・益川理論の章だ。新粒子発見の嵐の時代、その混乱期に登場したクォーク理論、CP対称性の破れを説明した小林・益川理論に触れていく。

第五章では、未だに物理学では謎のままである暗黒物質やダークエネルギー、物質・反物質の非対称性について触れていく。小林・益川理論でCP非対称性が明らかになったし、宇宙初期には物質の方が反物質より10億分の2だけ多かったとわかった。宇宙がこれまで物質と反物質が出会い、対消滅し、残った我々の世界は宇宙初期の余分な10億分の2というわけだ。しかし、小林・益川理論だけでは、この10億分の2の差は理解できない。太陽ニュートリノの観測量が、予想より少ないのも、実は我々が電子ニュートリノしか観測していなかったからで、ニュートリノは他にもタウニュートリノやミューニュートリノに変わることがあるからだとわかった。ニュートリノと反ニュートリノのCP対称性はまだよくわかっていないので、これを研究すれば、物質がこの世に満ち溢れていることの説明をよりよくできるかもしれない。そして超ひも理論や宇宙の終焉について触れ、まだまだ人類は宇宙の4.4%しかわかっていないと言って締めくくる。

一度読んだだけでは体系的な整理ができず

200ページほどの薄い新書だが、本書に盛り込まれていることは多く、またどれも興味深い。クォーク発見や、11月革命、CP対称性、宇宙マイクロ波背景放射など、当時の興奮が伝わり、一気に読んでしまうだろう。優れたサイエンス・コミュニケーションを実現した本だ。ただ、そもそも扱う内容の難しさもあってか、読み終わった後、ちゃんと人に説明できるほどの理解はできていない。体系的に理解するためにも、機会があればまた読んでみたい本だ。

また、高エネルギー加速器研究機構のホームページには物理教育のための平易な説明ページがある。本書を振り返りつつ、こちらも理解の参考になった。

どこかの物理専攻の学生ように、ペスキンの『場の量子論』やD.マーチンの『クォークとレプトン』のような難しい教科書を読むのに辟易してしまった学生にもオススメしたい本でした。


参考文献




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