書評: ピーター・ティール, ブレイク・マスターズ(2014)『ゼロ・トゥ・ワン』

書評: ピーター・ティール, ブレイクマスターズ(2014)『ゼロ・トゥ・ワン』(関美和訳), NHK出版社



東京駅の書店で通路側に山積みになった本にふと目が留まった。PayPal商業者のPeter Thielが書いた本だった。PayPalについて読んだのは、アダム・ペネバーグ(2010)『バイラル・ループ』(中山宥訳), 講談社を読んだときが初めてだった。



PayPalは、メールでの決済機能を提供している。大学の数学で暗号をやっていた学生が、教授と協力して送金プログラムのプロトタイプを作り、eBayのユーザーにウケたなどと、『バイラル・ループ』読んだ気がするが、検索してもPayPalマフィアのことばかり出てきて、うまく見つからない。

書籍『バイラル・ループ』では、ネット企業が「口コミ」ならぬ「クリックコミ」によって、一人がn人を呼び寄せることで指数関数的にユーザー数が拡大していくことに注目していた。バイラルとは、virus的な、ウイルス的なという意味だ。一人あたりが呼び寄せる人数をバイラル係数と呼んでいた。ただし、最近では、バイラルの意味は変遷したかもしれない。イイネやシェアを強要する悪質なキュレーションメディア記事(多くの場合、記事は盗作)のことをバイラル記事と呼ぶようになってしまった。

PayPalの共同創業者は、その後もいくつもの事業を成功させ、投資活動も行ってきたので、PayPalマフィアなどと呼ばれる。PayPal卒業生が築き上げた会社、YouTube, LinkedIn, Tesla, Yelp、Yummer, SpaceX, Palantirなど、どれも1000億円以上の価値だ。PayPal文化とは何なのか。本書は、そのうちのPayPalのCEOであり、リーダー的存在だったPeter Thielが書いたものだ。


感想

エッセイのようで、科学的ではないが、読みやすい。資本主義の競争を勝ち抜く方法ではなく、市場を独占しろというのは逆説的だ。血みどろの競争したところで誰も幸せになれないし意味が無いという理由だ。



書評

賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?

常識を疑ってかからないといけない。ドットコムバブルや、クリーンエネルギーバブルの反省から学ぶことは多い。そのとき真実に見えても、数年後に間違っていたとわかることもある。

最近は、既存企業の模倣のようなものが多く、中国はアメリカの真似ばかりだ。それで豊かにはなれても、全く新しいものを生み出すことはできない。すぐに資源を食いつぶしてしまう。そのためには、新しいテクノロジーが必要だ。


競争をやめろ

そもそも競争をやめるべきなのだ。血みどろの競争を繰り広げる牛丼屋や、居酒屋のようになる必要はない。
競争環境では、誰も得をせず、たいした差別化も生まれず、みんなが生き残りに苦しむことになる。(P.58)
なぜ僕たちは競争することを疑わないのかというと、競争とはイデオロギーだからだ。競争がいいことであると、教義であると、幼いころより、教育システムによって刷り込まれているのだ。この競争は上に上がるほど熾烈であり、教育コストはインフレし、学費は上がり。自信満々で登って行っても、ある時点で敗れて夢が砕かれる。グーグルとマイクロソフトも、競争を始めてから、アップルに時価総額で抜かれた。競争は価値の証ではなく破壊的な力であり、ビジネスでは取り返しの付かないことになる。


独占しろ

遠い未来にキャッシュ・フローを生み出す(時価総額の高い)独占企業の特徴は次のようなものだ。
  1. プロダクト・プロプライエタリー: 2番手に10倍いじょうの優れたプロダクトを作る
  2. ネットワーク効果: 友人も使ってれば自分も使う。そのため小さい市場から始めなければならない。
  3. 規模の経済: ソフトウェアのスタートアップは限界費用がほぼゼロなので、規模拡大すると強くなる
  4. ブランディング: 強いブランドは独占への強力な手段だ
そして、小さく始めて独占し、規模拡大し、破壊的な競争を避けるべきだ。先手必勝である必要はなく、特定の市場で一番最後に大きく発展して、そこから長期目標に向けて規模を拡大しなければならない。


創業時がぐちゃぐちゃなスタートアップはあとで直せない

ティールの法則というらしい。最初が肝心であり、創業メンバーに不和があってはならない。はじめの判断を間違えて、パートナー選びに失敗すると、あとでなかなか修正できず、破産の瀬戸際まで追い込まれる。、一種のカルト的なビジョンを共有していなければならない。これは、『ビジョナリー・カンパニー』にもあった通りだ。

また、CEOの給料は安い方がいい。安いと、企業全体の価値をあげることに力を注いでくれる。

そして、マフィア作りには、職場を離れても会えるような相手と働くべきだ。これは『How Google Works』の採用基準にも書いてあったものと同じだ。
僕ははじめから、ペイパルを単なる取引の場ではなく固いつながりのある場所にしようと思っていた。絆が強いほど、居心地もよく仕事も捗るし、ペイパル以降のキャリアもうまくいくと考えたのだ。そこで、僕たちは一緒に働くことを心から楽しんでくれる人たちを雇うことにした。才能はもちろん必要だけれど、それよりも、ほかでもない僕たちと働くことに興奮してくれる人を採用した。それがペイパル・マフィアの始まりだった。(PP.162-163)


マフィアの力学

どうやってマフィアを作るか。Googleで高給で働ける人が、なぜ君の会社を選ぶのか。その答えは本書にはないが、ペイパルではビジョンに共感する人を採用しようとした。
ペイパルでは、米ドルに変わる新たなデジタル通貨を創るという使命に興奮できる人を採用しようとした。もし興奮できなければ、この会社に合わない。(P.164)

べき乗則

わずかな企業の時価総額は、他の競合を全て合わせた時価総額を上回る。どのベンチャーが成功するかはわからないが、大規模に成功するベンチャーにのみ投資するのが良質のポートフォリオだ。
あなたもべき乗則は意識しなければならない。自分自身は一人しかいないし、何十社も経営できないし、キャリアもいくつも選べない。だからこそ、何をするかが大事だし、自分の得意なことに集中すべきだし、それが将来価値を有無かどうかを真剣に考えた方がいい。



他には、シンギュラリティや、隠れた真実を皆が探そうとしない話、クリーンエネルギーバブルで敗れた企業の話、人間の4タイプの分類: 楽観的/悲観的 x 未来に対しての具体的/曖昧なイメージなどが続く。

こちらのリンクもPayPalマフィアやティールの考えを知るのに役立つ


追記: 2015年11月12日
糸井重里氏とピーターティールの対談を再び読んだ。その中

彼らは、非常に社交的ですが、あまり深い信念がなく、
2年間を温室のような環境で
同じような仲間といっしょに過ごし、
お互いにお互いのマネをしながら、
自分が何をしたいのか探し求めますが、
なかなかそれがつかめない。
そういう、自分たちの考えを持たない者どうしが
ビジネススクールで学んでいる。
という言葉は突き刺さる。ぼくの周りにもいる。何も疑いもせずに猛勉強し、競争を勝ち抜いてきたものの、他のことはどうしたらいいかわからず、 とりあえず周りの優秀そうな人たちの真似事をする。ベンチャーに入ったり、外銀に入ったり、コンサルに入ったりと、流行にのってみるのだ。ぼく自身もそうかもしれない。だからこそ、突き刺さる引用だ。特に、強い信念がないのはよくない。何かの理想を実現する、そのためなら犠牲も厭わない、そんな強い信念がないと、一歩も踏み出せない。たとえば、「休学がなんだ、新卒がなんだ。未来の実現のためにはそんなものどうでもいい。」という自信、気概や信念だ。自分に今足りていないものは、その信念だろうか。








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