書評: 有元美津世著(2009)『英語で意見を通すための論理トレーニング』, ジャパンタイムズ



タイトルほど過激ではなく、「米国から見ておかしい日本人の価値観を治す英作文書」であった。日本語部分だけ読んでいても学ぶところが多い。人と対等な関係を築き、お互いにとって選択肢にいたるための会話の仕方、そもそもの心構え、価値観が書いてある。自分の短所であり、改善したいと思っている点について触れてあり、いいタイミングで本書を手にした。詳しくは下記の「人にものを売るにはどうするか」で述べた。



最近は、スイスに持ってきた本を全て読み終えてしまっているので、研究室に置いてあった本を読んでいた。先代が日本から持ち込んで、そのまま持ち帰らなかった本だろう。

対象

  • 国際人になりたい人
  • 就活生
  • ものを売りたい人

本書の構成

表題の本だが、主に前半と後半で構成がわかれている。前半は英単語の適切な使い方: think/believe や trouble/problem の使い分けである。後半は、アメリカ式ビジネスライクな表現、伝え方に主眼が置かれる。同じ内容をたとえ日本語でも言えるかあやしい日本人は多いだろうと思える内容だった。本書で自分が特に学ぶべきだと思ったのは、その点だ。


日本人の感覚と米国人の感覚の違い

序章がよい。序章といっても、Chapter 1にあたる部分だ。著者は日本と米国を比較して、日本人の弱い点を――よく言われている点が多いが――浮き彫りに出す。たとえば、穏便に済ませようとし抗議もできず不利益を被る点、理屈っぽい会話を避けたがる点、理性的に解決しようとせず感情的になる点、議論と喧嘩の区別がつかない点などだ。次のような発言はとても日本的だ。


  • 「いえいえ、まだまだ大したことないです」
  • 「これだけ一生懸命がんばってきたのに」
  • 「あの社員には子どもが生まれたばかりなのに解雇はかわいそうだ」
  • 「転職したいです。今までの功績?ありません。」
  • 「批判するのはかわいそう。」


それらに対し、米国ではどう受け取られるかを述べていく。謙遜は無能の現れであるし、何か問題があるときは解決のためにどうするべきかを考えるべきで、そのような議論は喧嘩ではない。そこに感情が入る余地はなく、論理的に、理性的に議論して、お互いにとっての最適解を見つけるべきだ。商品でも自分でも売り込むには、控えめではいけない。自信もって主張していかないといけない。

人にモノを売るにはどうするか

Chapter 4は「売り込み」と「苦情」にあてられる。特に売り込みについては、心構えの基本として参考になる点が多い。

ものを売るには、相手の視点にたち、相手へのメリットを明確に伝えないといけない。「ぜひお目にかかりたい」ではどういう目的で会いたいのかわからない。「あなたのように偉い方から学ばせていただく」と無能な学生のようにへりくだっても通用しない。「当社の躍進のために」などとselfishに自分を主張してはいけない。具体例を見たほうがわかりやすい。

次のPP.98-99の例を相手の視点を考慮したものに書き改めてほしい。

  • アメリカ滞在中にお会いしたいと思います。
  • Eコマースについてもっと学びたいと思います。ご教授ください。
  • 弊社のさらなる発展のためご協力ください。
  • 日本で導入できるよう米国での最新の情報を探しています。
  • 事業を拡大しようとしているところです。
  • 市場シェアを伸ばしたいのです。
筆者は次のように添削している。


  • アメリカ滞在中に御社を訪問して、Eコマースにおける弊社の新しい試みをご説明したいと思います。それでどのようにサポートしていただけるかご提案くださればと思います。
  • 当社の新規ECビジネスでご指導いただける適任のコンサルタントを探しているところです。両者が共に追求できるビジネスチャンスについてご相談したいと思います。
  • 御社についてさらに学ぶ機会をいただければありがたいです。
  • 調査報告書は日本の主要銀行の幹部が読むことになります。これは「調査にご協力いただければ」、日本の金融業界で御社の知名度を上げるすばらしい機会となるでしょう。
  • 両者間のビジネスチャンスの可能性を検討するために御社を訪問したいと思います。弊社では、現在、日本にライセンスできる開発ツールを探しています。
  • 当社のサービスが御社にとってどれだけ有益かを説明させていただければと思います。

本書中では、全て英訳も付されている。このような言い換えができるようになれば、日常コミュニケーションにおいても、間違いなく有益であり、対等な人間関係を築いていける。そして、相手のために自分ができることを自覚できるようになり、できることを増やすように努力できるだろう。

次に、履歴書の書き方について触れる。
自分を売り込むことも同様だ。履歴書では、どのような問題を、どのようなスキルや能力を得ることで解決し、成果を上げていき、それを次の環境でどのように応用していったかである。筆者は、実際に受け取ったという次の例をあげる。

ベスト大学に来る前は、日本で電子セクターで機械技師として働き、ABCコーポレーションのような有名企業の下請けをしていました。ビジネス知識を強化し、英語でのコミュニケーションスキルを磨くため、昨年、ベスト大学に来ました。(P.114)

これを筆者は、技師としての具体的な仕事、その功績、留学先で応募職に必要なスキルを身につけたことがわかるように添削する。

渡米前は、日本で3年間、機械技師として働きました。ABCコーポレーションで、さまざまな電子製品の設計、開発、導入に携わりました。先方に出向き、同社の経営陣と当社の技術チームの橋渡しを努めました。常に期日どおりにプロジェクトを完了し、一年後にはABCとの契約額は倍増しました。昨年より、ベスト大学ではマーケティングを勉強しており、市場調査、その他のクラスを受講し、グローバルリンクでのチョウシャプロジェクトに携わる用意ができております。(P.115)

筆者によるこういった指摘は、英語以前の問題だ。相手と対等になり、お互いを今よりよくするための、お互いにとっての最高の選択に至るための会話の仕方である。本書には、このような具体例が多くあり、参考になる。読んでいて、それぞれに付された英訳はほとんどどうでもよく、発想の転換、精神的な心構えをいかに変えるか、本書から学び取ろうと努めた。人にへりくだったり、お願いしたりするのは禁句だ。もしビジネスを始めたいなら、その価値観の時点で既に潰れてる。そのモノの考え方を直さないといけない。たとえば、「起業の仕方を教えて下さい」、「プログラミングってどうやるの?」など安易にお願いしていてはダメなのだ。そんなんだから、いつまで経っても何も人に与えられずバカなのだ。

上記に述べたような理由から、本書のタイトルは、「米国から見ておかしい日本人の価値観を治す英作文書」がふさわしいと判断したのだ。本書は、米国勤務した筆者の感覚から見た、相手と対等な関係を築き最善の選択に至る話し方について、日本人が誤りやすい点を中心に述べた本なのだ。

国際人とは何か

国際人とは、「たとえ通訳を介してでもいいので、国ごとの文化的な違いを整然と説明できる人」のことだ。

もし、こう聞いたとき、あなたは納得するだろうか。本節で国際人について少し考えてみる。「国際」とは、次のように国語辞典で定義される。 
こくさい【国際】
一つの国だけではなく,いくつかの国にかかわっていること。多く他の語の上に付けて用いる。 --大辞林第三版 
では、国際人と聞くと読者は何を思い浮かべるだろうか。国際政治に詳しい人、英語が堪能な人、国際公務員、facebookの友人に外人が多い人、留学経験者など、答えは様々だろう。

本書中の「はじめに」で、国際人であることと英語が話せることは異なるというT.W.カン氏の発言を踏まえ、次のように筆者言う。
そうした人よりも、日本語で理路整然と話ができ、通訳を使って外国人に意思を伝えられる人のほうが国際人というわけだ。
 そして、筆者はある日本人の発言を引用する。
日本の歴史や日本とアジア諸国の関係を、日本ではまだちょんまげを結っていると思っている人に説明できる人
この点は私も同感だ。ただ英語が話せるだけでは、何にもならないのだ。私は今スイスで研究しており、ヨーロッパ人や中東の人と話す機会は非常に増えた。彼らとは政治的な話、文化的な話もする。

パキスタン人「日本人は何でアメリカと仲いいんだ?原爆落とされたのに」
インド人「何で日本は少子高齢化が進んでいるんだ?」
イスラエル人「日本とアジア諸国の関係は最近はどうなんだ?」

上の質問は、実際に彼らに聞かれたものの一部だ。このように聞かれたとき、あなたはどう答えるだろう。日本語でも説明するのが難しい。国際感覚というのは、単に英語が話せるだけでなく、それぞれの国の文化や政治を理解し、全く知らない外国人に理路整然と説明できることを言うのではないか。そのようにして国際的なコミュニケーションをとることが国際なのではないか。たとえ英語が話せるだけでは、会話にならないのではないだろうか。もし「国際人だから日本のことは知らない」と言う人がいたら、それはおかしくて、ヨーロッパ、中東、日本を含むアジアについて話せないといけないのだ。自分は当初、上のような質問に答えられず、日本についてすら知らないことを痛感して恥ずかしくなり、エコノミスト誌を毎日読むようにした。その結果、今では政治的問題や文化的問題についても話せるようになった。さらによいことに、自分の意見まで添えられるようになった。

人をバカにする筆者

本書の欠点の一つは、筆者が人をバカにした態度をとることだ。
「意味合いがある」ことを正しいと裏付ける根拠は?そこで筆者から次のように反論されてしまった(P.11)
ということで、筆者は 自己の主張の根拠となるメールの例をたくさん持っており、上記のような根拠を伴わない異議には簡単に反論できてしまうのである。(P.12)

驚くほど不快な書き方で呆れるばかりだ。海外経験で米国のビジネス感覚を身につけて鼻を高くした筆者の人間味がよく現れている。島国で育ったモノカルチュアルなあなた達は話にならないわ、といった声が聞こえてきそうである。友人にはほしくないタイプだ。





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