書評: ジョン ウッド (2007)『マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった』(矢羽野薫訳)武田ランダムハウスジャパン

2016年に印象に残った本の書評です。今回はNPOについての本です。
Here is one of the most impressive books I read last year.

・ジョン ウッド (2007)『マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった』(矢羽野薫訳)武田ランダムハウスジャパン
(John Wood, Leaving Microsoft to Change the World: An Entrepreneur’s Odyssey to Educate the World’s Children Paperback, 2007)

マイクロソフト社のエグゼクティブが、NPO法人を立ち上げる話。筆者は休暇で旅行したネパールの図書館に愕然とする。本が貴重だから本棚に鍵がかかっていたのだ。しかも、本棚には旅行者の置いていったウンベルト・エーコのイタリア語の小説ぐらいなどがあり、ネパールの子どもが読むものではなかった。校長に、次は本を持ってくると約束した筆者は、帰国後、友人や親の協力のもと、大量の本とともに再びネパールの山奥へ訪れた。本業のかたわら本を届ける活動を続けていたが、次第に本業に意義を見いだせなくなった。中国でオフィスがどれだけ売れることに何の意味があるのかわからなくなったのだ。CSR(企業の社会責任)の活動でネパールに支援したいと申し出るも、ネパールの貧しい子どもが将来の顧客になるはずはないと言われ断られた。その利益追求の姿勢に失望した筆者は、自分が本当に大事だと思うことに専念するようになった。貯金を切り崩し、恋人にも愛想をつかされた筆者だったが、マイクロソフト社での経験を活かし、非常に透明で実績のあるNPOを育てていった。その手腕によって彼のNPOが他と違うものになっていくところも感心である。その活動は、図書館の建設、学校の建設、さらに女子向けの奨学金にも広がっている。NPO法人"Room to Read"によって笑顔になった子どもたちの写真を見ると、どこからか、涙がこみ上げてくる。子どもが笑顔で暮らす地域はよいものだ。

社会問題は誰が解決するのか。ドラッカーは「ネクスト・ソサエティ」の中で今後の社会問題の解決にNPOが重要な役割を担うと述べ、政府や民間にくわえて重要な機関となると指摘をする学者はいる(ヘンリー・ミンツバーグ(2015)『私たちはどこまで資本主義に従うのか』)。民間企業には限界があるのだ。では、NPOなら解決できるのだろうか。本書にその答えはないが、本書を読めば、筆者がかに寄附金のために奔走する姿に驚くことだろう。いいことをしていればお金が湧いて出てくるわけではないのだ。

読書は学力や教育の基本になる。子どもは母親の膝の上で学習する。字が読めない親は子どもに読み聞かせることができない。先日紹介したメアリアン・ウルフ『プルーストとイカ』では、

「読字の学習は、幼児が膝に抱かれて、始めてお話を読んでもらうときからは始まる。生後5年間にそんな機会がどれほどあったか、なかったかが、後の読字能力を予測する最良の判断材料のひとつ」
「言語面で恵まれていない家庭の子どもたちと言語の刺激を受ける機会が豊かな家庭の子どもたちが耳にする単語の数には、幼稚園に上がるまでに早くも3200万語の開きが生じる」
「語彙が豊富で連想力が豊かな子どもたちは、どんな文章を読んでも、どんな会話をしても、同じ語彙や概念を持たない子どもたちとは相当異なる経験をする」
と指摘がある。読み聞かせのあった子どもは、言葉のイメージングが身につく。たとえば、同じ「道」という単語を聞いても、夕焼けに照らされる畦道や、つづら折りになった上り坂を浮かべることができる子どもと、そうでない子どもでは、経験するものが異なる。語彙についても、「道半ば」、「道を極める」、「わが道をゆく」といった連想があるかないかの違いは見逃せない。それらを踏まえると、彼のNPOの取り組みは、子どもの人生経験や教育に関する問題の本質的な点に変化をもたらしていくのだろうという気がするのだ。




参考文献/Bibliography
ヘンリー・ミンツバーグ(2015)『私たちはどこまで資本主義に従うのか―――市場経済には「第3の柱」が必要である』(池村千秋訳)ダイヤモンド社
(Henry Mintzberg, Rebalancing Society: Radical Renewal Beyond Left, Right, and Center, 2015)

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